つい先日のこと。
親しい友人のひとり、Yさんが旅立ってしまった。
友人とは言っても、20以上年の離れた大先輩ではあるが、食の好みや趣味・嗜好の部分がお互いに共鳴し、さまざまなことを語り合ってきた仲でもあるので、あえて友人と呼ばせてもらう。
私の飲食観に大きな影響を与えたYさん。
これまでの記事の内容にも大きく関係があるので、今回はYさんへの想いを綴りたい。
Yさんと知り合ったのは、2009年。同じ会社の先輩であり、私の同期は彼の部下であった。
同期から飲食好きの上司がいるという話を聞いていたが、偶然にも仕事でご一緒する機会があり、好きな店や酒の話になったことが親交を深めるきっかけとなった。
Yさんもまた地元が神戸であり、私はたくさんのことを教わった。
私もそれなりに神戸のこと、こと飲食店については詳しい自負がある。
しかし、彼は当時の私には引っかからないジャンルの店を熟知していて、大変な感銘を受けたのだった。
ふたつばかり例を挙げると、まずは南京町にあった「外人バー」。
書籍を通じて、かつての南京町の治安悪化の温床だったらしいことは認識してはいたが、2009年時点では1,2店しか現存しないと聞いており、実際に訪れたことはなかった。

彼は昔から外人バーに出入りしていて、アングラな独特の雰囲気やキャッシュオンデリバリーの醍醐味などを存分に語ってくれた。
そして初めて一緒に飲み歩いた夜、その一軒である「チャーリーブラウン」を紹介してくれた。
小雨のなか、薄暗い路地にぼーっと浮かび上がるサイン。扉を開くと赤暗い照明のなかでリーゼントの店主がギターを弾いていた光景が今でも脳裏に焼き付いている。
もうひとつは、老舗の酒場。
フレンチ・懐石にほぼ一辺倒だった私にとっては30代中盤まで未開拓の分野だった。
彼から教わった店に新開地の「丸萬」がある。
「安いし、何を食べてもきちんと美味しいのよ」
こんな言葉だったかは定かではないが、実際に尋ねてみて、冷奴やししゃも、田楽、刺身、焼き鳥、バッテラ等々、ひととおり頼んでみたのだった。


なるほど、確かに何を食べても美味しい。
素直にそう感じたし、驚くほどの美味しさではなく、安心できる味のなかにプロの技がキラリと光るのが新鮮だった。
また、酒の銘柄が白鶴のみだったことも驚きだった。
決して品揃えが悪いのではなく、酒造会社と運命共同体という信頼関係のもとに成り立っているからこそ、きちんとその酒に合うブレない料理だし、看板にもロゴを書けるのだと遅ればせながら学んだ。
ちなみにその時の会計は3,000円くらいだったと記憶しており、これまた衝撃を受けたのを覚えている。
その後も丸萬にはしばしばお邪魔したし、東京でも老舗酒場の開拓に勤しむ現在がある。
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