Skip to content

東京・高田馬場のとんかつ事情

「高田馬場のとんかつがアツイ」

初めてそんなことを聞いたのは数年前のことだった。

徳川家が営む馬場があったことに由来してこのように名付けられ、明治期以降はおもに早稲田大学に程近い学生街として栄えてきた高田馬場だが、近年、JRの新大久保駅から高田馬場駅にかけて沢山の日本語学校が乱立し、街は中国や東南アジア出身の学生たちで溢れるようになった。

付近には世界各国の料理店が次々と誕生しており、隣の新大久保駅のコリアンタウンに対抗して「アジアンタウン」と呼んでも差し支えないほどに劇的な変貌を遂げている。

そんな高田馬場のまちで日本のアイデンティティを掲げて奮闘しているのがとんかつ屋というわけだ。

実際に食べログのサイト内で「東京 とんかつ」と検索すれば、高田馬場の店が結構ランキングの上位に来る。

11月1日現在のランキングでは、全1,381店中、

第1位に「とん太」https://tabelog.com/tokyo/A1305/A130503/13003984/

第2位に「成蔵」https://tabelog.com/tokyo/A1319/A131905/13236380/

と出てくる。

「とん太」は1976年に高田馬場で創業したれっきとした老舗。絶滅したバンカラ早大生もきっと食べていたに違いない。

「成蔵」は南阿佐ヶ谷の店だが、「低温揚げ」の白いとんかつをウリに今年の春まで高田馬場で約8年半営業を続け、移転前まではずっと第1位をキープしていた強者である。

ちなみに「成蔵」跡地には現在、平仮名の「なりくら」というとんかつ屋が入っている。調理法も酷似しており、暖簾分けなのだろうか。

「なりくら」https://tabelog.com/tokyo/A1305/A130503/13233734/

少なくとも今年の春まで、数ある名店を抑え、高田馬場の店がワンツーフィニッシュしていたという事実だけ取っても、このまちがとんかつでアツイことは明らかだ。

ランキングの続きを見ると、

第24位「ひなた」https://tabelog.com/tokyo/A1305/A130503/13204289/

第32位「とん久」https://tabelog.com/tokyo/A1305/A130503/13000116/

「ひなた」は通常の定食に加えて、夜は部位の食べ比べコースを提供する面白い店。「ミシュランガイド東京2019」では、高田馬場エリアから上記「成蔵」とこの「ひなた」がビブグルマンの店として選出されている。

「とん久」は前述の「とん太」よりもさらに古い1971年の創業、50年近く続く大老舗だ。豚肉・キャベツ・米、いずれも素材にこだわっているようで、これまで挙げた店の中で最も駅チカ。いつも客足が絶えない人気店だ。

というわけで、上位50位までに3店舗(「成蔵」を除く)、高田馬場の店が含まれることを確認できた。

さて、普通ならこの流れでそれぞれの紹介といきたいところなのだが、実はわたくし、この3店舗でうかがったことがあるのは「ひなた」だけなのだ。

「ひなた」以外の店にはとことんフラれ続けている。

なぜなら高田馬場時代の「成蔵」はいつも整理券対応のあり様、ある日の6時半に腹を空かせて係の人に尋ねると、「8時ならご案内可能です」。

それならば駅チカの「とん久」に…とビルのエレベーターを下ると、眼前には行列が。

行列待ちして食べるのが好きでないわたくし、ならばちょっと遠いが「とん太」まで歩こうと思い、店前まで行くともっとスゴイ大行列ができあがっており、意気消沈…といった具合だ。

それほど今、高田馬場ではとんかつがアツイのだ。

一方で「ひなた」も行列ができる人気店だが、幸いにしてめぐり合わせよくうかがうことができている。

というわけで、ここからは「ひなた」とそれ以外にもう1店、個人的なオススメを紹介したいと思う。

まず、「ひなた」のとんかつはまさに教科書的といった表現が当てはまる。

肉の厚さ、火の通り具合、衣の厚さ、揚げ具合…どれをとっても黄金比のように模範的であり、最大公約数のお客を集められる構成だと思う。

上ロースかつ定食

いずれも身が分厚く切られていて、肉の歯応えを十分に愉しめる。衣は比較的薄く、あくまで肉を引き立てる脇役。

噛みしめると、ジューシーな肉汁・脂の風味が衣と絡み、口いっぱいに旨さが広がる。

ロースかつアップ

なんでも「漢方三元豚」という脂の融点が低い品種を用いているため、舌の上でコクや旨味を感じやすいのだとか。なるほど、テーブルにはとんかつソースが置かれているが、塩だけで十分である。

また、「ひなた」が面白いのは参考書的な一面も持ち合わせているところ。

「ロースかつ定食」、「上ロースかつ定食」、「上ヒレかつ定食」といったオーソドックスなメニュー以外に、「上リブロースかつ定食」、「肩ロースかつ定食」、「らんぷ定食」…と、ちょっとマニアックなメニューが並んでいて、プラスアルファの体験ができるのだ。

らんぷ定食

ランプ肉のとんかつは初めて頂いたが、身の味がとりわけ濃く、柔らかかった。ヒレ肉と比べてわずかに脂が乗っている印象で、とても珍しい味わいだ。

「ひなた」の情報は他にも詳しく掲載されているので、ここらへんで控えようと思う。

さて、もう一つ私が個人的にお勧めしたい店はというと、「とん米」である。

「とん米」https://tabelog.com/tokyo/A1305/A130503/13220877/

外観全景

JR高田馬場駅の西側、落合方面に2分ほど歩いたところにある路面店であるが、上記の有名店がいずれも駅の東側に位置するため、目立ちにくい。

経営母体は江戸時代に創業した常盤屋という米穀商店ということが屋号の由来だろう。

私は10回ほどうかがっているが、最初に食べた「上ヒレかつ定食」が美味すぎて、以来それしか食べていないため、オススメは厳密には「とん米の上ヒレかつ」である(笑)。

上ヒレかつ定食

肉は栃木・那須高原の「曽我の屋の豚」を中心に使用しているという。

「中心に」という文言が少々気になるが、美味しければ問題ないし、実にこの肉が美味しいのである。

上ヒレかつアップ

写真のように薄っすらピンク色の状態で供されるのだが、まずは一切れ、少量の塩だけで頂いてみたい。肉汁が口の中に溢れ、まるで上品なスープを頂いているような感覚になる。

残りもすべて塩だけでいっても十分に満足感を得られるのだが、横に添えられたおろしポン酢と頂いても、抜群に美味い。

肉の旨味、ザクザクした衣に染み入る大根おろしの爽やかさとポン酢の酸味が混然一体となり、旨味が際立つ塩のみとは対照的な味わいだ。

当初は衣の量が少々多くはないかと思っていたが、おろしポン酢をたっぷりつけるにはこれくらいの分量ときめの粗さが最適なんだと実感させられる。いやぁ計算してるね。

上ヒレかつは私が今まで頂いたヒレかつの中でも1,2を争う旨さだと思うが、定食としての完成度をさらに高める脇役の存在も外せない。

まずは米。米穀商店直営だけあって常時上質なものがふっくら炊き立ての状態で供される。米一粒一粒が立っていて、甘い。幸せな気分になりますな。

そして、キャベツにかけるドレッシング。これは他店をはるかに凌駕している。愛媛の直営農園で育てたレモンからつくったものらしく、レモンがもつ自然の酸味が大変心地良い。無限ループでキャベツが止まらなくなる。

バラ売りもしていて、私を含めこれを買って帰るお客も少なくない。是非一度ご賞味あれ。

しまなみレモンドレッシング

というわけで、高田馬場とんかつ事情についてつらつらと書いてきた。

アジアンタウンもイイが、とんかつの灯を絶やさないでもらいたい。

差し当たりこれだけとんかつ屋が揃っていれば、今後も追随する新規出店者が出てくることだろうし、是非応援できればと思っている。

引き続きフラれ続けている人気店にはアプローチを試みつつ、「とん米」のような隠れたお店を発掘していきたい。

ちなみに、「とん米」では近いうちに上ヒレかつ定食を卒業し、上ロースかつ定食にチャレンジしてみたいと考えている。

コメントを残す