引き継いだ当初は調理の経験があまりなく、サラダひとつ満足に作ることすらできなかったというが、必死に創業時のレシピや食材について研究し、ジュセッペ氏の域まで辿り着いた。
渡邊さんは修業の過程でジュセッペ氏の料理がいかに基本に忠実だったかを思い知ったというが、渡邊さんの料理をひと口頬張れば、その教え・伝統を継承しようという心意気がすぐに伝わってくる。
料理はコースかアラカルトのいずれかを選択するが、初めての方ならまずはベーシックな料理が並ぶコースを、2回目以降はアラカルトで食べたいものをオーダーされることをお勧めする。
それでは今回は私が特に美味しいと思ったメニューを厳選してご紹介したい。
まずは前菜の「真ダコのボイル ドレッシングソース」。
真ダコは明石産の小ダコを使用。さすが明石海峡の荒波に揉まれて育っただけあり、身が締まっている。素材本来の味が濃く、それをシンプルなレモンのドレッシングが実にうまく引き立てている。
この春には水谷豊と木梨憲武が映画のPRを兼ねたテレビ番組で来店、この真ダコに舌鼓を打ったという。
「ツブ貝の前菜」、「イワシとレッドオニオンの前菜」。
これも実に美味しかった。いずれもシンプルなマリネだが、先の真ダコといい、新鮮なものだけを仕入れ、素材の持ち味を最大限に活かす味付けを心掛けていることがよく分かる。
「フェットチーネ」。
創業以来ずっと同じレシピで作られているという名物料理だ。自家製の手打ちパスタは薄くて柔らかいが、独特の食感を有している。淡く優しいクリームソースとも実によく馴染んでいて、本当に美味しいものは今も昔も変わらないことを実感させられる一皿だ。
「ラム肉ミンチとレンズ豆のパスタ」。
きっと写真では伝わらないだろう。一見すると何の変哲もないミートパスタなのだが、一口頂いてその優しく上品な味わいに思わず唸ってしまった。豚肉よりも脂が少ないラム肉を使うことであっさりした味わいになり、ラム肉のクセはトマトではなくレンズ豆で円やかに和らげる。パスタのアルデンテ加減も素晴らしい。まさに匠の一皿。
[…] その前にドンナロイヤの予習だが、1952(昭和27)年にイタリア人のジュゼッペ・ドンナロイヤ氏が神戸元町・旧居留地で創業した神戸最古のイタリア料理店であり、現在はジュゼッペ氏の跡を継いだ2代目・渡邊元則さんが83歳にしていまだ現役で腕をふるっている(以前の記事はこちら)。 […]