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私のソウルフード(1)

「ソウルフード」とはもちろん韓国・ソウルのご飯ではなく、「その地域特有の地元の人々に馴染み深い料理」を意味するが、最近では、転じて、個人が昔からずっと食べてきた家庭の味や常連店の料理という意味でも使われることがある。

そういう意味では、私のソウルフードは家庭の味以外にふたつあると思っている。

今日はそのひとつをご紹介したい。

店があるのは、神戸・元町商店街。

元町商店街5丁目の風景

この商店街、実は私にとっては昔からとても馴染み深い場所である。

私が通っていた小学校には、100年続いた一杯飲み屋やジュースが有名な果実店、今革製品が人気の靴屋、かなり老舗の洋服屋など、ここで店を営む商店主の息子・娘が大勢在校していたため、よく訪れていたのだった。

なかでも年に一度、7月に行われる「元町夜市」では、商店街の端から端までの各商店主が総出で露店を出店、串焼きや焼きそばを食べたり金魚すくいができるとあって、子供の頃は夏の一番の楽しみだった。

そして1991年、時はバブル経済絶頂期の夏、「夜市の前の腹ごしらえに」と、親に連れられて初めて入った店の料理がソウルフードになった。

ズバリそれは「つるてん」の「ぶっかけそば」である。

「つるてん」には2店舗あり、商店街の3丁目にあるのが「つるてん生楽」と言う、いわば本店である。

本店・看板
本店・外観

これに対して支店として位置付けられるのが、5丁目の「つるてん西店」。

西店・看板
西店・外観

しかし、それぞれが家族経営で、あまりお顔が似ていないことから察するに、別資本の店なのではないか。

1991年に頂いた私のソウルフードとは、正確には本店のぶっかけそばなのだが、その味はすでに途絶えてしまっている。

というのも、かつて本店の店主が本格的に蕎麦打ちを勉強し直したいということで関東に修行に出向き、凱旋後の2006年頃、メニューを大幅にリニューアルして再オープンしたのだった。

これを機に、プロトタイプのぶっかけそばも全く違う料理になってしまった(リニューアル当初はそもそもメニューから消えていたと記憶している)。

一方、西店では当時と全く変わらないぶっかけそばを提供しており、今となっては西店の味がソウルフードに近いと言えよう。

というワケで、これよりつるてんのぶっかけそばを解説しよう。

まず、西店のぶっかけそば(¥850-)から。

西店「ぶっかけそば」

蕎麦の上に具がなみなみと乗っている。

内訳は、天かす、鰹節、大根おろし、ネギ、生卵、海苔にわさび。本店のプロトタイプには海苔が乗っていなかった。

西店「ぶっかけそば」アップ

この上から陶器に入ったつゆを全体にぶっかけ、混ぜ合わせて食べるのが基本スタイルだ。

混ぜ混ぜした際の写真だが、あまり美味しそうには見えないので撮っていない(笑)。

つゆは鰹の旨味が効いた関西風。蕎麦は白蕎麦でコシはないが弾力がある。

江戸前の本格蕎麦が好みという人が食したらきっと期待外れに終わることだろう。どちらかと言えば、蕎麦の香りを愉しむというよりもつゆの旨味で蕎麦を食べるという雰囲気で、歯の悪い老人からしょっぱいものが苦手な子供まで包含する大衆的・ジャンクフード的な美味しさである。

なお、西店では、冷と温、そばとうどんの選択が可能。冷たいぶっかけそばを注文する際は「ひやぶっそ」と常連は言う。

一方で本店のぶっかけそば(¥990-)はというと、こんな感じだ。

本店「ぶっかけそば」

西店よりも幾分上品ないで立ちである。

ネギが別盛りで供されるのは、関東蕎麦の薫陶を受けたからだろう。

具は鰹節に大根おろし、あられ、ネギとより西店よりもシンプル。

本店「ぶっかけそば」

蕎麦は手打ちだけあって、コシと香りが際立っている。それゆえ具を極力シンプルにして本来の味を愉しんでほしいという意図が読み取れる。

ぶっかけるつゆは西店よりもキリっとしたつゆで、関東のものに近く、この蕎麦によく合う。

なるほど混ぜ混ぜしても蕎麦の風味が損なわれておらず、極めてバランスが良い仕上がりだ。

なお、本店は冷のみでうどんもリニューアル時に淘汰されているため、ぶっかけといえば1種類のみになる。

以上、本店と西店を比較しながら解説したが、客観的に判断すれば、味は本店に軍配が上がるだろう。

しかし、自分のソウルフードとなると、西店の味になる。私はこの味に衝撃を受け、以来、人生の折々でぶっかけそばを食べてきたのである。

毎週土曜日、高校からの帰り道、友人と学ラン姿で本店の2階に上がってはぶっかけそばを愉しんだ。随分とお見掛けしていないが、眼鏡を掛けたショートヘアのおばちゃんはお元気だろうか。

また、忘れもしない2005年12月16日。大学院からの帰りがけ、西店のぶっかけそばを食べながら読んだスポーツ新聞。オリックスバファローズの仰木彬元監督逝去のニュースに驚いて思わず蕎麦を噴き出した記憶がある。

まだまだ挙げればキリがないが、それほどこのぶっかけそばは私の青春期とともに歩んできた馴染み深い味なのだ。

正直、世の中にはもっと美味しい蕎麦もあるだろう。しかし、これは明らかに別物・別枠。私の食の原風景を創り上げた、ソウルフードなのである。

西店店頭のサンプル。イイ味出してる

2 Comments

  1. ボッサ ボッサ

    つる天に関しては西店のぶっかけ、私も賛成です。
    元町の西側はさびれているようだけど、実はハーバー
    なんか比較にならないくらい渋い名店が点在してますよね。
    もう一軒のソウルフードの記事、またの愉しみにしておきます。

    • mickeater mickeater

      ボッサ様
      コメントを頂戴し、誠にありがとうございます。
      賛同いただけて大変嬉しく思います。
      仰る通り、元町西側には未訪問の渋い店がたくさん集まっています。
      後継者問題のため閉店してしまいそうな店も少なくなさそうなので、できるだけ早く訪問して勉強させていただきたいと思っています。
      もう一軒のソウルフード、乞うご期待でよろしくお願いいたします!

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