前回の投稿で胃腸炎になったことを書いたが、その後暫くは呑み食いを自粛せざるを得なかった。しかし、1週間が経ち体調も随分回復したので、今宵は何か美味いものを…とひとり快気祝いをしてきた。
場所は豊中・岡町、市役所沿いの大通りに面したところに店はある。
「中国名菜さだひろ」(以下、さだひろ)、貞廣真一さんが営む広東料理の店だ。
昭和初期に建てられた一軒家をリノベーションした、煉瓦造りの外観が一際目を引く。
扉を開くと、白と黒で統一されたシックでエレガントな空間が広がる。テーブル席が7卓あり、想像以上に広い。
天井は梁見せになっており、開放感がある。
本日はアラカルトで赴くままに好きなものを頂いてみた。
あつかましくも病み上がりの旨伝えたところ、有り難いことに可能なものはハーフサイズで提供してくださった。
まず最初は白ワイン…といきたいところだが、病み上がりということもあり今日に限っては芋焼酎お湯割り(しかも薄め)で乾杯。
最初は「前菜盛り合わせ」から。
葱生姜ソースをあしらった蒸し鶏やクラゲの冷製、中国風ピクルスなど、ここでしか頂くことができない個性的な6種類の前菜が一口サイズで並ぶ。
どれも美味しかったが、今日は特に木姜油で味付けされたクラゲの冷製に感心させられた。木姜油とはレモンバームに似た香りのオイルだが、そんな香りをまとったクラゲを食べた経験はなかったし、実によくマッチしていた。
続いて、「蟹入りフカヒレスープ」。
プリプリしたズワイ蟹の身、ヒレのかたちを残してたっぷり入ったフカヒレが淡く優しい中華スープのなかで泳いでいて、とても贅沢だった。
魚料理は本日のおすすめにあった「平目の強火蒸し」をセレクト。
この日はブロッコリー、カリフラワー、舞茸とともに供された。
地元・泉州で獲れた平目は身が締まっていて新鮮そのもの。葱油に溜まり醤油というシンプルな味付けが淡白な白身本来の旨さを際立ていて、技術の高さを感じさせる。
個人的にはこれが今日のハイライトだった。
肉料理は「黒醋酢豚」。
付け合わせは山芋、蓮根、牛蒡、エンドウ豆にフキノトウの天ぷらも。
これは毎回必ずオーダーする一皿。奥様が他店で実食し「臭みが全くない」と感嘆したという天草豚を数時間煮込んで作られた酢豚は驚くほどに柔らかい。外側の香ばしい揚がり具合と深い黒醋の風味、さらには脇を固める付け合わせの野菜も含めて抜群の全体バランスだ。
さらに、「旬野菜の炒め」。
ウルイと菜の花なんて渋い。嬉しい。オイスターソース炒めやXO醬炒めもセレクトできるが、今日は優しい塩炒めで。
いやー優しくて滋味深い。旬のものにありつける幸せよ。病み上がりの胃に沁みますなぁ。
にしても、鮮魚、醋豚からの野菜炒め。
私のオーダー順は野菜炒め、鮮魚、醋豚だったが、実際、後に野菜炒めが供されたことで何だかほっこりすることができた。
順序、緩急って大事なんだなと改めて実感した。
そうこうしているうちに、まだイケるという感情が湧き上がってきて、追加で「香港風焼きそば」をオーダーしてしまった。
細短い麺の食感が心地良く、溜まり醤油がよく絡んでいて風味豊か。胡麻・香菜も良いアクセントになっており、見事な〆の一皿だった。
別腹デザートはタピオカ入りココナッツミルク。
さらにマンゴープリンも。
最後は中国茶でサッパリ。
久々に心から美味いと思える中華料理を頂くことができた。
以前にも申し上げたとおり、「神戸元町別館牡丹園」の五目焼そばが私のソウルフードであることは紛れもない事実である。
しかし冷静に考えて、今日のさだひろのアラカルトコースは私の記憶にある限り、自分史上最も美味しく頂くことができた中華料理だったのではないかと思っている。
シェフの貞廣さんは「素材にこだわり、基本に忠実なオーソドックスな料理を目指している」と言うが、今日の料理はまさにそのことばを体現するかのような内容。
素材の旬・鮮度を見極め、組み合わせる。そして、確かな技術で蒸す、煮る、炒める…近年、奇異な調理法や珍味すぎる珍味に食べ疲れを起こしている(オマケに胃腸炎だった)私には、当たり前のことを当たり前にやってのける貞廣さんの料理が深く心に響いたのであった。
是非、また近いうちに訪れたいと思う。御馳走様でした。