前回に続いてグルメ関連の書籍を紹介したい。
まずは、井上旭氏の「フレンチの王道 シェ・イノの流儀」(文春新書、2016年)。
昨秋、フランスに行く前に親しい友人からもらって読んだ一冊。読み返しても全然飽きない。「シェ・イノ」の井上旭シェフの自伝的な内容で、田舎から出てきたひとりの青年が渡仏し、今や伝説となった往年の名シェフたちと渡りあっていく過程が興味深く描かれている。これを読めばマリア・カラスが食べたくなること間違いなし。
遠藤哲夫氏の「大衆食堂パラダイス!」(ちくま文庫、2011年)。
通称「エンテツ」で知られる大衆食堂評論家の遠藤哲夫氏渾身の一冊。角打ちの老舗居酒屋と同様に文化遺産的な存在になりつつある大衆食堂。昭和の時代、田舎から都会に出てきた青年労働者にとって、大衆食堂は最も故郷の台所に近い存在だった…そんなノスタルジックな情景を思い浮かべながら読んでもらいたい。エンテツ氏の並々ならぬ大衆食堂愛が伝わってくる。
道場六三郎氏の「”鉄人”道場六三郎の料理の極意を教えよう」(主婦と生活社、1994年)。
確か13年前、下北沢の古本屋で購入して一度も開いてなかった一冊。
出版当時は現役の和の鉄人としてグルメブームを牽引していた道場氏。テレビで「六三郎だけに63歳です」と言っていたのを思い出す。そんな道場氏も今年で89歳、先日「徹子の部屋」で見かけたが、その健在ぶりに驚かされた。
本書では道場氏の考えたオリジナルレシピが数多く掲載。実際に「料理の鉄人」で披露した創作料理とオーソドックスな季節の料理が半々くらいの印象。合間に入る、自身のこれまでの経歴や鉄人での裏話などを語ったフリートークも面白い。道場氏の日本料理、食文化に対する深い造詣が垣間見えて、興味深い一冊だ。
最後は辻嘉一氏の「懐石料理 炉篇」(河原書店、1950年)。
京都において、かの懐石料理店「辻留」を創業した辻留次郎氏。その息子で2代目の嘉一氏による料理教本。
現代の懐石料理の基礎をつくりあげたレジェンドが直々に解説しているとあって、ありがたく読み進めたいが、幾分古書だけあって文章が文語文のような文体のため、受験勉強をしているような気になる。
月毎に懐石メニューとレシピを掲載するとともに、旬の食材の特長・持ち味について丁寧に解説している。やはり料理は基本が大切なのだと改めて教えられる。
以上、このStay Homeの間に色々と知識を蓄えることができた。あくまでイヤな評論家のように分析・批判を展開する材料にするのではなく、自分の感性で美味しさを愉しみ、その裏側には何があるのかを探る参考資料としていきたい。