次は揚物とのことだが、「ゆっくり食べといてください」と言い奥に走る秀一さん。
この日、私は飛び入り入店したのだが、他に複数名のグループ客が来たこともあり、用意していた天ぷらのタネがなくなった模様。
裏に生け簀があるのだろう、暫くして活きの良い鰈を持って戻ってきた。
目の前で手際よく捌き始めるようすについつい見入るが、何だか色んなところに包丁を入れている。
そして捌き終わったものを奥・調理場の富二さんに渡した。どうなるのだろうと日本酒をチビチビ愉しみながら待つこと数分。
供されたのは鰈の丸揚げだった。
立体的で見事なフォルム。なるほど、飾り包丁はこのためだったのか。彩りにはしし唐。これまたイイねえ。
ポン酢と紅葉おろしで頂くが、均等に火が通っていてサクサク香ばしい。もちろん頭から骨まで余すことなく愉しめた。酒も進んだ。
86歳にして依然高いテクニックには恐れ入った。そして親子の阿吽の呼吸が素晴らしい料理の数々が生みだしていることを体感した瞬間だった。
焚物は野菜焚き合わせ。
特筆すべきはそれぞれの野菜が別々に調理されていること。なかでも梅風味の人参は甘酸っぱくて他店にはない味わいだ。
お食事に移る前に「日本酒に」と神戸・明石の春の風物詩、いかなごのくぎ煮を少し。
割烹って自由で楽しいと思った。
御飯物はちりめん山椒のお茶漬け。
〆に相応しい上品な味わい。海苔の風味が口いっぱいに広がる。直前にすりおろした山葵が絶妙なアクセントになっている。
甘味はメロン、苺、マンゴー。
メロンとはこれまた贅沢な気分だ。マンゴーにはライムをひと絞り。仕事が細かい。
ご馳走様でした。