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居酒屋のはなし

居酒屋のはなしをしたいと思う。

近頃の居酒屋と言えばもっぱらチェーン展開の店が主流で、タッチパネルでの注文、ピンクグレープフルーツ酎ハイやバーニャカウダなどの今っぽいメニュー、学生アルバイト店員による接客が当たり前だが、私自身、どうしてもそういう店に愛着が湧かなくて、プライベートではできるだけ個人経営の居酒屋で飲食することを心がけている。

「BRUTUS」2016年8月15日号

とりわけ良質な老舗で過ごす時間はとても愉しい。

チェーン店にはない個性的な特長が際立っていて、大変味わい深く一献傾けることができるのだ。

私自身、関西・関東にそれぞれ数店ばかりお気に入りがあるが、ここ数年は閉店が相次いており、老舗が経営難や後継者不足に直面する悲しい現実を目の当たりにしている。

今や絶滅危惧種であると言っても過言ではない老舗の居酒屋。

日本が誇る文化遺産だと私は思う。

というわけで、この記事を読み、これまでチェーン店しか訪れたことがないという方がいれば是非一度、地元の老舗居酒屋を訪れていただきたいと思う。

少しでもその魅力を伝えたく、今回は私流・老舗居酒屋の愉しみ方を3つご紹介しておきたい。

①店を愉しむべし
老舗は張りぼてのチェーンと異なり、店の構成要素すべてが味わい深い。例えば、木造の店舗外観、オリジナルの暖簾、年季の入ったコの字型のカウンター、整然と並んだ折敷、お品書き、店主の佇まい…見渡せば色んなものが目に入ってくるだろう。まずはすべてを目に焼き付け、店が歩んできた歴史、そこで繰り広げられてきた人間ドラマを勝手に空想してみよう。例えばこんな具合である。「創業は40年前か。その頃はきっとこの一枚板のカウンターも真っ白やったはず。店主は当時20代か。先代に厳しく仕込まれてたんやろな。腐らず一生懸命やってきはったから今があるわけや。でもたまには息抜きもしてたはずよ。こんな頑固そうな人にもインベーダーゲームやったり百恵ちゃん聴いたりしてた時代があったはず。あれ?今目の前にいるのは女将さん?少し百恵ちゃんに似てはる。いつ結婚しはったんやろ」…余計なお世話や!と言われそうだが、後々答え合わせをすると事実は全然異なっていたりして、案外愉しい。加えてもうひとつ、店にいるお客たちの食事風景もイイ酒の肴だ。老舗には決まって毎日通い詰めているような人も多く、数回行けば誰が大常連かすぐに分かるだろう。大常連が時間をかけて悠々と熱燗にツマミを2,3品愉しんでいるようすはまさに百獣の王の風格。私たち新参者は王の注文のしかたや立ち居振る舞いから、店の掟やうまいものを自ずと学んでいくことになるのだ。

東京・大塚「江戸一」の入り口

②うまい酒と料理を愉しむべし
老舗は総じて酒の種類は多くない。お品書きに「酒」とだけ書いてあり、それが1種類の日本酒を指す店だってざらではない。「これを飲め」と言わんばかりである。いやぁ媚びてないね。 「イチゴサワー」や「カシスオレンジ」なんてナウい酒が置かれていると逆にテンションが下がるのである。
料理も同様。「ぬた」、「刺身」や「もつ煮」、「焼き魚」という具合に実に潔い。「シーザーサラダ」とか「豚キムチ」なんて邪道である。
酒も料理も一流の日本料理店にはかなわないだろう。しかし、素材へのこだわりや酒との相性(≒ツマミとしての完成度)、ほっとできる素朴な味わい、コストパフォーマンスの高さなど、何がしか秀でたものがなければ何十年と続くものではない。

東京・大塚「江戸一」の厚揚げ
神戸・新開地「丸萬」のバッテラ

③郷に入らば郷に従うべし
老舗には暗黙のルールを設けているところが結構多い。例えば、「注文は少量ずつ」、「常連席と非常連席の区別」、「ケータイ使用禁止」、「酒は●杯まで」、「万札での支払い禁止」、「女性だけでの入店禁止」、「私語禁止」…といった具合だ。正直、私語禁止の店は絶対嫌だが、入ってしまったらまずはお店に身を委ねることにしよう。最初は窮屈に感じるルールもあるが、それを守ることで愉しめることもきっとある。ルールを知らなかったために怒られたり、注意を受けることもあるかもしれない。しかしそこは人対人の相性。店主・店員のことばに愛情を感じることができればまた行けばよい。本当に不愉快な思いをさせられたと感じるなら無理に再訪する必要はないと思う。

以上、あくまで私流の愉しみ方だが、少しでも参考になれば嬉しい。

今はインターネットでの事前調査が可能だし、ある程度、自分の好みに合ったお店を選ぶことができるはずだ。

また、いきなり一人での入店はハードルが高いという方は知り合いの飲んべえおじさん行きつけの店に同伴させてもらえばよいのではないか。大変失礼だが、私も含めおじさんは案外、こういう時に役に立つものだ(笑)。

是非、皆さんにもお気に入りの一軒が見つかることを心から願いたい。

そして老舗の居酒屋が少しでも盛り上がればこんな嬉しいことはない。

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