今から4年前の秋に頂いたパイ包みに想いを馳せながら、そう実感している。
パイ包みを作ったのは、神戸・三宮にあるホテルピエナ系列のワインバー「クレイエール」のシェフだった吉川修司さん。
その吉川さんが昨年12月いっぱいで「クレイエール」を卒業し、ホテルの朝食部門に異動となったので、今までに頂いた彼の料理を回想していたところ、このパイ包みが最も印象に残る一皿だったと結論付けた。
パイ包みはジビエのなかでも特に希少性が高い森鳩を使った特別メニューだったが、そのフォルムのインパクトや皿のかっこよさ、ソムリエの大森誠さんが合わせてくれるワインとのマリアージュの楽しさ、そして何とも官能的でセクシーな味わい…とにかくすべてが満たされていた。
「かっこよく、楽しく、セクシーに」…これは料理に対してこそ使うべきフレーズだと、どこぞの環境大臣には教えてあげたい。
さて、吉川シェフの料理はピエナの宿泊客にしか提供されないため、しばらくレビューはできない。
「吉川シェフ、お疲れ様でした」の気持ちを込めて、私が当時記したパイ包みのレビューを原文ママに掲載したいと思う。
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2016年11月10日。
ジビエの美味しい季節になりましたね。
飲み会の前に大胆にも、Palombe(パロンブ)をパイ包みで頂きました。
Palombeとは、フランスはピレネー山脈周辺でしか獲れない、木の実を主食とする森鳩のことで、狩猟期間はわずか2〜3週間。その希少性から、Becasse (べキャス)と並ぶジビエの王様と称されています。
この日のパイ包みはフォアグラに、秋らしくシャンピニオンのソテーとトリュフ のスライスがふんだんにあしらわれたスペシャルオータムバージョン。
エルメスの赤いお皿が映えます。しっかりとした歯応えに野生味滴り落ちるミディアムレアの血肉、それでいて味わいに品があるのは、やはり森鳩が木の実を主食とするグルマンだからでしょう。ここに秋の茸の香りが加われば、口内はまさに深い森の中。
ソムリエ から供されたワインは意外にも、イタリア の「Biondisanti(ビオンディサンティ)」。
ソムリエはさすがシェフの料理をよく理解していらっしゃる、重厚なボディとエレガントな味わいが見事に料理とシンクロして、実に素晴らしいマリアージュ です。
私は信頼できるシェフのもとでしかジビエをオーダーしません。理由はシンプル、貴重なジビエを無駄にしたくないからです。シェフが野趣溢れるジビエの持ち味を余すところなく引き出し、食べ手が自然の恵みに感謝しながら料理を味わい尽くすことができれば理想的だと考えます。
今回のプレディナー(笑)はそれを体現する、実に貴重な経験と相成りました。
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改めてレビューを見て、このあと飲み会に行った自分に何とも呆れるが、こういう一皿はタイミングが合った時にしかありつけない代物である。
その点、たとえ飲み会の前であってもチャンスをモノにしようと努力した当時の自分の姿勢はある程度評価してやりたいと思う。
吉川シェフ、またよろしくお願いします。
[…] 朝食が美味しいホテルとして、2019年に旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」で全国1位を獲得しており、以前の記事でも紹介した三宮のワインバー「クレイエール」の元シェフ、吉川修司さんが腕を振るっているので、これは行かないワケにはいかないと思い今回足を延ばしたのである。 […]