神戸・諏訪山の麓にある古い2階建ての物件。
ここは少なくとも30余年、様々なテナントが入れ替わり立ち替わり入居してきた。
爬虫類カフェやスムージーの店など、そのジャンルは多岐にわたったが、不便な立地条件もあってか、経営がうまく行かず、長く定着できる店はなかった。
しかし、最近とある店によって、そのジンクスに終止符が打たれた。
コーヒーとドライフラワーの店、「hanato coffee(花と珈琲)」である。
広告手段はInstagramのみと言いながら、ドライフラワーが綺麗にディスプレイされた店内とカップに小さなドライフラワーをあしらったコーヒーの提供のしかたがいわゆる「バエる」と瞬く間に話題となり、連日、諏訪山の坂を上がってくる若い女性があとを絶たなくなった。
全国津々浦々からこんなローカルでマニアックな場所にお客が殺到するなんて誰が想像したことだろう。
まさにSNS全盛の現在ならではの成功事例と言えよう。
以前から、女子の琴線に触れるコンテンツとはどんなものか大変興味があったのだが、店内には常に淡い色のオーバーサイズのセーターを着た女子たちが楽しそうに撮影に興じており、オッサンの入る隙はなかった。
しかし、物件の老朽化によって、この場で営業を続けることが困難になり1月19日をもって営業終了、三宮への移転が決まったと聞いたので、最後に…と意を決して入ってみた。
幸いにして店内は私ひとり。物腰柔らかい素敵な女性スタッフが快く対応してくれた。
色々写真を撮らせてもらい、バエる空間を満喫させてもらった。
2階にも上がってみる。
狭小ながら色とりどりのドライフラワーが吊るされ、正面に鏡が配されたベンチでコーヒーと写真撮影を愉しめる空間は女子受けするだろうなあと実感。
また同時に、限られたスペースのなかで植物の温もりが感じられるよう、実にうまく空間演出がなされていて感心してしまった。
自家焙煎のコーヒーも美味しく頂いた。
「hanato coffee」が移転すればこの物件はとり壊されてしまうのだろうが、ここ何十年もこの場所の変遷を眺めてきたひとりとして、何ともセンチメンタルな気分になった。
是非、三宮に移転しても、私が諏訪山で感じた温もりに溢れる店であってほしいと思う。