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【神戸・三宮】季節のおでんと美人姉妹のもてなしに温まる、「おでん処よし田」

「○○ちゃん、久しぶりー」

「寒なってきたけど、元気しとった?」

ここは神戸・三ノ宮一の歓楽街・東門街。

暖簾を潜ると、鮮やかな色違いの着物を着た二人の綺麗なお姉さんが出迎えてくれる。

「最初何しよっか?」

「そうねん。これ先月から新しく出してるねん。どう?」(注:「そうやねん」ではなく「そうねん」と言う)

本当にこんなことを話していたのか、半分は妄想かもしれないが、これは決していかがわしい店の会話ではなく、カウンターでオツなおでんを出す「おでん処よし田」(以下、よし田)でのワンシーンである。

綺麗なお姉さんは5つ違いの姉妹で、店名は二人の旧姓から名付けられたもの。

姉の由美さんはアパレル企業の元社員、妹の洋子さんは元看護師という異色の経歴だ。

昔から食べること吞むことが大好きだったという二人。いつかは一緒に店を出したいという想いを結実させたのは2014年6月のこと。

Meets Regional 2015年1月号より

ストイックな食べ歩き経験から生まれたエッジの効いた季節のおでんと兵庫・西脇仕込みのはんなり関西弁の接客はすぐにお客の心を掴み、わずか9席のプレミアムシートは連日の賑わい。

客層は老若男女さまざまだが、最も多いのはやはり、中年の男性お一人様。

「きれいなおねえさんは、好きですか。」

パナソニックのCMみたいに質問したら皆「ハイッ」と即答しそうな人ばかりである。

しかしそこに下心はまるでなく、単にあったかおでんと二人の心温まる接客に心身ともに癒されたい健全な人たちばかり。

小さな店内で隣り合わせになれば初対面のお一人様どうしでも会話が自然と始まる。

狭い神戸にあって、話せば思わぬ繋がりがあることも多く、ご縁とは実に不思議なものと実感させられる。

ここは美人姉妹を囲み、オトナたちが肩の荷を下ろして和気藹々と寛ぐ社交場なのだ。

そんなよし田で供される料理は、神戸牛のたたきからスタートし季節のおでんが8,9品並ぶコースが基本。おでん単品でのオーダーも可能だ。

この季節のおでんがまた、なかなかユニークだ。そのいくつかを紹介しよう。

例えば、コースのなかでおでんのスターターを飾る「たらこ」。

だしのなかで花が開いたかのような鮮やかさにその後の展開に期待感が高まる。たらこの絶妙な塩加減にぐいぐい酒が進みそうになるがまだ序盤、焦らず行こう。

「巾着」。

中身は九条葱。上には生姜をのせて。九条葱は煮込まれているので、ナマ特有の尖った香りが抑えられる。そのぶん、生姜で異なる香りをプラスし、マンネリズムを打破。巾着の薄揚げを裏向きにしてあるのは、煮込むとより味が染みるからだそう。

「トマト」。

今の季節はチーズをあしらい熱々のだしをかけて。食べ進めると徐々に身が潰れてトマトスープのような状態になる。

夏場はパセリとクリームチーズを合わせてサッパリ冷たいおでんに仕上げる。

「大根」。

貝割れにあん肝と白味噌を合わせたソースで。実にあっさりとしていて上品な味わい。底に沈んでだしが染み込みまくった黒甘ーい大根とは一線を画している。

おそらく一番人気の一皿ではないだろうか、「玉子」は黄身を半熟の状態で葱を散らして。

箸を入れると、黄身がトロリとだしに溶け出して円やかなスープに。うーん、絶品である。

以前、夏に訪れた際は幸運にも葱の代わりにサマートリュフが。シャカシャカと贅沢に振りかけてもらい、生まれて初めてだしとトリュフのコンビネーションを体験させてもらった。

「ソーセージのレタス包み」。

これはとりわけ秀逸だった。ソーセージとだしの相性にも驚かされたが、しんなりシャキシャキしたレタスがまた美味いこと。あしらわれた胡椒も素晴らしいアクセントになっていて、二人のセンスの良さに脱帽した。

最近登場した新メニュー、椎茸。

四つ切りにし七味を振りかけて頂く。身から染み出す旨味とフレッシュな歯応えが新しい。おでんというジャンルではありそうでなかった一皿だ。

牛タン。

だしであっさりと煮込まれた身は柔らかくホクホクの状態。白髪葱、カラシと合わせるところがまた心憎い。一般的なメニューである「牛すじ」を出さないところがさすがよね。ワンランク上の味わいです。

一品一品のポーションは小さいが、だしまでついつい飲み干してしまううえ酒が進むので、ひと通りコースを頂けば満腹になることだろう。

単品のオーダーならその都度、こちらのようすを確認してくれる。

「〇〇ちゃん、お腹の具合どう?」

由美さんからの問いかけに、

「もう一杯です」

と返すと、奥で調理を担当する洋子さんに向かって、

「〇〇ちゃん、終了ですぅ」。

それを聞いた洋子さんが奥から出てきて、

「〇〇ちゃん、和らぎ置いとくねぇ」

と、グラスに入った水を出してくれる。

恥ずかしながら初めて知ったのだが、「和らぎ」とは、深酔いしないために酒の合間に飲む水を意味するのだという。

ちょっとしたお姉さんの気遣いに疲れた心が癒される。

しかし、「和らぎ」とは何とよい響きの言葉だろう。決して「水置いとくでっ」ではないのだ。

今宵も仕事を終えた人たちが東門街の坂を北上していく。

もう春だが夜は肌寒い。是非、よし田で心も身体も温まってほしいと思う。

由美さん、洋子さん、よろしくお願いしますね。