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【神戸・県庁前】実直な仕事に裏打ちされた旨い肴の数々、「魚菜きし」

それ以来、さまざまなシチュエーションでお世話になっているのだが、「きし」の魅力は何と言っても、豊富な品揃えと安定感だと思う。

お造りから揚げ物、焼き物、煮物、焚き物、鍋、ご飯もの、麺類、甘味まで、お品書きには常時70種類ほどの料理が並ぶ。

ぎっしり一品メニューが書き込まれたお品書き。価格は税抜、変動もあるかと存じます

市内広しと言えども、わずか10席の割烹でこれほどの品揃えとバリエーションを誇る店はそうはない。それでいて、どれを頼んでもハズレがないのだからこれまたスゴイ。これはひとえに岸さんの引き出しの多さと一皿一皿にかける手間暇の賜物である。

ここで料理のほんの一部を紹介したいと思う。

まずは必ず最初に供される付き出し。

付き出しを紹介することに違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれないが、私はここに「きし」の本質が集約されていると思う。

茄子皮の煮物や鯛皮の南蛮漬け、穴子の骨せんべいなどそれぞれに丁寧な仕事が施された小さな酒の肴が数種類盛り付けられたこの付き出し、いずれもメイン料理で用いた素材の皮や内臓などを余すことなく丁寧に調理して仕上げたものなのである。

まさに浪速割烹の神髄、「始末の心」を体現したものであり、岸さんの素材に対する感謝と慈しみの心が感じ取れる。ひいてはその精神が引き出しの多さと豊富な品揃えにも繋がっているのだと実感する。

一気に食べてしまわず、一つひとつを愛で味わいながら愉しんでみよう。

続いて、「焼きセロリのヌタ」。

「きし」の定番メニューのひとつであり、私は必ず注文する。最初は「セロリのヌタって…」とあまり惹かれなかったのだが、あの台風の夜、岸さんに勧められ頂いていたところ、目から鱗が落ちたのだった。焼いたセロリはクセの強い香りが抑えられ甘味が際立つ。ヌタとの相性は抜群、穂紫蘇がまた良いアクセントになっていて日本酒が進む。洋食でもセロリが主役になる料理はほとんどなさそうだが、それを和食でやってしまう岸さん。あっぱれである。

「金時草のお浸し」。

これも台風の夜に頂いて印象に残っている一皿。初めて金時草という野菜を頂いたのだが、見た目の鮮やかさに反して、クセがなく実にさっぱりとした味わいだ。少しぬめりもあって、ツルムラサキに似ている。薄味のだしとアラレの香ばしさが秀逸で、これまた日本酒が進むのである。

続いて、夏に供される「銀杏」。

鮮やかな緑色はこの時期だけだという。もっちりした秋の黄色い銀杏とは対照的で、こちらは瑞々しい食感。味付けは少量の塩だけ、本来の甘味が際立っていて素材の底力を感じさせる一皿だ。ここでもまたまた日本酒が進んでしまう。

「造り盛り合わせ」。

他店と比べると、「きし」の盛り合わせは一風変わっている。ヒラメの昆布〆やイカのウニ乗せなんかも浪速の食い味という感じで神戸ではなかなか見ないと思うが、それにも増して、やはりくじらの存在感がデカい。今時くじらを供する店なんて全国的に見てもあまりないからだ。

「脂須の子」という、下顎から胸にかけての部分の肉を生姜醤油で頂くのだが、これがまた意外にさっぱりしていて美味い。

もし鯛や鮪に飽きてきたら、是非ここのお造りを味わってみてほしい。

「鮎の塩焼き」。

これも7月中頃から9月初旬ごろまでの季節モノで、私は必ず注文する。琵琶湖でとれた泳ぎの鮎を水槽から出して目の前で塩焼きにしてくれる。

この日はスダチと紅芯大根の酢漬けで。ありきたりの蓼酢と供さないところも心憎い。シーズン後半には子持ち鮎、たっぷり卵を蓄えた状態になる。

勿論アタマから頂くことができ、上品な苦味が鼻を抜けたあと、身の甘味がついてくる。いやーやっぱり日本酒よ。

「天ぷら盛り合わせ」。

まずは季節の野菜から。写真は春バージョン。さっくりと揚がった葉物、根菜、茸などが体裁よく盛られている。春野菜はとりわけ甘味が際立っているので、塩だけで頂きたい。

続いて、別盛りで車海老。

塩かだしで頂く。しかし、一尾ごとにおろしボールを作る丁寧さよ。身はプリプリで新鮮そのもの。実に甘かった。新鮮なものは全部甘いのか。アタマは香ばしくて完全に酒の肴。本来なら捨てられてしまう部分も始末の心で一尾丸ごと、違った愉しみ方ができる。素材に感謝・感謝である。

「穴子の押し寿し」。

〆のご飯ものとして吸い物が付く。押し寿しで〆るなんて、いかにも関西らしくてイイ。甘いタレの穴子に刻んだ紫蘇と生姜が入った爽やかな酢飯が絶妙のバランスである。他にも〆としては、茶漬けや雑炊、にゅうめんなどが用意されているので、その日のお腹の具合で臨機応変に選べるのが嬉しい。

私は「きし」を訪れるまで、本格的な浪速割烹の流れを汲む日本料理を頂いたことがなかった。したがって、「きし」が私に始末の心や浪速の食い味など、浪速割烹の基本を教えてくれたと言っても過言ではない。私が他店でその醍醐味をすんなり理解できるようになったのも「きし」のお蔭だと思っている。

岸さん、改めてありがとうございます。

実はこれだけ本格的な料理を供する割烹にあって、日本酒一合と肴一品からでも愉しませてくれる間口の広い店である(勿論、当日の状況次第であるが)。

まだ浪速割烹の醍醐味に触れたことがない方は是非一度、気軽に暖簾を潜ってもらいたい。

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2 Comments

  1. ボッサ ボッサ

    魚菜きし、いい店ですよね。決して安くはないけれど
    まさに適正適価の店ではないかと思います。
    あと個人的には特筆すべきことが。飲み物のメニューには
    スパークリングと白ワインがあります。これが和とワインで
    いきたい気分のときにはすごく嬉しい。

    • mickeater mickeater

      ボッサ様
      コメントを頂戴し、誠にありがとうございます。
      スパークリングと白ワイン?置かれているとは知りませんでした…!次回是非、試してみます。
      ちなみに今般のコロナの影響で1ヶ月間休業されるとのこと、また再開されたら愉しみたいと思います。

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