東京メトロ表参道駅とJR渋谷駅のちょうど中間地点あたり。青山学院大学沿いの通りに世界が注目する店がある。
その名は「ラチュレ」。若きオーナーシェフ、室田拓人さんが営むフレンチレストランだ。
室田さんは神谷町「レゼールヴェルト」や銀座「レストラン タテルヨシノ」などで修業を積んだのち、渋谷「デコ」のシェフに就任。自らも狩猟免許を取得してジビエ料理の魅力を世に知らしめてきた。
その後、2016年にこの店を独立開業するやいなや、ゴ・エ・ミヨの「明日のグランシェフ賞」やミシュランガイド東京の一つ星など数多くのタイトルを獲得し、一躍世界中からグルマンが押し寄せる有名店に駆け上がった。
私は今が旬の有名店よりもベテランシェフが長年営む安定感のある店を好むが、ジビエが大好きという性分もあって、ここは前々から訪れてみたいリストにノミネートしていた。
そんななか、とある日の春、昼に渋谷で私用があり出かけた折、スマホで食べログを見ていたら、「本日昼お席が空きました」の文字。
これは滑り込むしかないと電話をし、ラストオーダー間際の13:30、運良く入店が叶ったのだった。今回はその時のレビューといきたい。
まず入店してすぐに感じたのは、活気だった。
ラストオーダー間際にもかかわらず店内は満席。厨房では大勢のスタッフが忙しく働いている。お客の会話がBGMになっており、私が雑誌やネットの写真から想像していた静かな雰囲気、重厚な空間とは大きくかけ離れていた。
おまけにカウンター席もあって、一人からでも気軽に本格フレンチを味わえる、そんな空間構成に私はイイ意味で期待を裏切られたのだった。
私は勿論お一人様、カウンターに座らせてもらった。
さて、スタートはお決まりの泡から行きましょう。
続いてアミューズはマカロン。
とは言っても、この茶色の正体はチョコレートではなく鹿の血。中身も鹿のブーダンだ。血生臭さなど全くなく、むしろ軽やかな味わい。この店の定番だが、やはりインパクト絶大よね。
続いて春菊のポタージュ。
色鮮やかで美しい。クリーミーななかに香るほのかな苦味。春だなぁ。
パンとバター。
パン、美味かった。
サーモンのミキュイ。
まさに芸術。花やナスタチウムがこんなにも美しく盛られてるの、初めて見たかも。やはり春だなぁ。サーモンは低温調理で火入れも言うことなし。ソースは確かミルクとワサビだったか、爽やかな味わいにまとめてくれた。ワインが美味い。
パテアンクルート。
これが一番のハイライトだった。鹿肉、猪肉、熊肉にフォアグラ入り。かといってジビエ独特のケモノ臭はそれほど感じず、円やかにコク深くて重厚な味わい。ピスタチオも効いている。分厚いパイ生地もずっしり美味だし、パテとの境界部分を埋めるコンソメジュレがこれまたイイ仕事をする。言うまでもなくワインが進む。やはりクラシカルな料理は素晴らしい。
メインは牛頬肉の赤ワイン煮込み。
言わずもがな、ド定番のクラシカル。前座の個性が強くて、印象が少し薄くなってしまうのは残念だが、基本に忠実で実に美味しかった。柔らかく煮込まれた頬肉は勿論のこと、大胆な野菜使いにも感心した。そりゃあワインが進みますよ。
デセールはイチゴのパフェ。
こちらは以前に紹介した「エンメ」の奥様がシェフパティシエールだった頃のもの。フレッシュなイチゴに酸味のあるジュレ。クリームは確か根セロリだったかな。爽やかなイタリアンパセリもまた絶妙のハーモニー。
何度も言うが、料理とデセールそれぞれ作り手が違うことで違和感を覚えることが多々ある。しかし彼女はよくシェフの仕事を理解されていて、コースの最後を見事にまとめてくれた。
室田さんが「彼女、グングン伸びてるんですよ」と評価していたのが印象的だった。
最後は食後の小菓子と紅茶。
小菓子は緑茶が香るフィナンシェ。美味しく頂きました。
総じて、タテルヨシノ譲りのクラシカルとモダンを織り交ぜたコース構成はとても愉しかった。ランチはジビエ好きもジビエが得意でない方も満足できる無難な内容だったが、きっとディナーはよりジビエに特化したマニアックな内容になるのだと察する。次回、是非チャレンジしてみたい。
店はきっとこれからも進化していくはず。この内容ならいずれはグランメゾンのようなハコでの展開があるのではないか。ジビエにしては値段もかなりリーズナブル、カジュアルにふらっと行ける今のうちが狙い目だ。空席があればの話だが。
追伸:現在は席数を減らし時間を短縮して営業中とのこと。食べログで空席状況が確認でき、予約も取りやすそうだ。