神戸・元町はトアウエスト。この辺りは1990年代後半から若者たちのファッションメッカとして栄えてきた。
私も学生時代は休日のほとんどをこのトアウエストで過ごし、神戸発3大ショップと言われた「乱痴気」、「JUNK SHOP FACTORY」、「KNOCK OUT」で洋服を買いまくったあと、疲れたら大バコカフェの「Red Cloud」でひと休みするというルーティンができあがっていた。
そんなトアウエストもやがて大型セレクトショップの台頭やネット通販の浸透により、訪れる若者の数は減っていった。店舗も大きく入れ替わり、アパレルの店と同じくらいに飲食店が目立つようになった。
こうした流れのなかで、2015年1月に誕生した洒落た本格蕎麦屋が、東野朋江さんの「そば処 堂源」(以下、堂源)である。
開店から5年が経ち、雑居ビルの2階一番奥というハンディにもかかわらず今では有名人がお忍びでも訪れる有名店となった。
東野さんは福井県の生まれ。長く神戸の飲食店で働いていたが、独立を考えるにあたって蕎麦屋に弟子入りすることを決意。かつての三宮の名店「堂賀」の門を叩いた。
「堂賀」と言えば、神戸の本格手打ち蕎麦屋の草分け的存在で、田舎蕎麦、茶蕎麦、けし切り蕎麦を盛り合わせた名物・三色蕎麦が真っ先に思い浮かぶが、ご主人は造船技師から蕎麦打ちに転身した変わり種で、その経歴に違わず仕事ぶりも精緻。感覚を頼りにする職人が多いなか、詳細なレシピを作成して東野さんに残してくれたのだそう。
今回は①そんな名店譲りの蕎麦と、②日本酒好きな東野さんが選りすぐった地酒、そして、③日々の食べ歩きの研鑽から生まれたであろう旨いアテの数々を紹介したい。
①まずは地酒から。東野さんの地元・福井のものを中心に常時10種類ほどのラインナップだ。
私のなかで外せないのが、山口・岩国市の旭酒造「獺祭」。
ジョエル・ロブションともコラボするなど、昨今の世界的なSAKEブームの火付け役となった獺祭だが、その美味しさを改めて認識させてもらったのがココ。
開店当初、スパークリングから二割三分、三割九分など、まるでブライアントやバースの打率のような種類まで色々呑みくらべさせてもらった。甘さ、香り、余韻…それぞれ全く異なる味わいなのだが、ひとつ言えるのはどれも蕎麦によく合う酒だということ。
まぁ、私にはその程度の見識しかないことをお察しいただきたい。
次に、福井・鯖江市の加藤吉平商店「梵」。
こちらも今や世界的な知名度を誇る銘酒だが、私のスマホ画像を見ると、毎回この「ときしらず」の画像が登場していることに気づいた。
獺祭が幾分ワインの趣を感じさせるのに対して、こちらはきりりと辛口で香り高く、これぞ日本酒という味わいを醸し出している。蕎麦を頂くにはまさにベストマッチの一杯だと思う。
その他、福井・敦賀市の黒龍酒造「黒龍」や奈良・奈良市の今西清兵衛商店「春鹿」など、イイ酒が揃っている。是非色々試してもらいたい。
②続いてはアテ。
「板わさ」や「だし巻き」に福井名物「鯖のへしこ」、冬季限定の「おでん」…と、まさに酒呑みの酒呑みによる酒呑みのためのメニューが並ぶ。
先日頂いた「黒胡麻豆腐」はとりわけ美味かった。
豆腐はきめが細かく滑らかで濃厚な味わい。味噌をあしらってあるが、これがまた侮れない。胡麻本来の甘味・香りを惹き立てるとともに、酒を誘う。十分な量あるので、これだけで随分と愉しめる。
続いて、「薄揚げねぎのせ」。
薄揚げに刻みねぎがたっぷりとかかっていて、醤油をかけて頂く。言わずもがなのコンビネーションであるが、薄揚げは油っぽさがなく上品な大豆の風味を噛み締めることができて秀逸な味わい。胡麻豆腐といい薄揚げといい、こだわりのものを使っていることが窺える。
さらに、「牛すじ煮込み」。
間違いなく私がこれまで訪れた蕎麦屋の煮込みではトップクラス。しっかりアクを取り柔らかく煮込まれていて、丁寧な下仕事のあとが窺える。甘さは控えめ、ねぎと一味唐辛子が絶妙のアクセントだ。
③最後はいよいよ蕎麦のご紹介。
こちらの蕎麦は九割または十割の2種類で、蕎麦本来の甘味・香りを存分に愉しむことができる。また、師匠譲りの細切りで、その食感と喉越しの心地良さが特長的。
寒い季節の温蕎麦も良いが、これらの持ち味を愉しみたいなら断然、冷蕎麦をお勧めしたい。
まずは人気の「おろし蕎麦」。
私が訪れた際にはすでに売り切れていることが多い。私はどうも関東で頂く辛味蕎麦と相性が悪いので、瑞々しい白大根を使ったおろし蕎麦はありがたい。絶対こっちの方が蕎麦の持ち味愉しめるやんか。特筆すべきは、プラス料金で生卵を付けることができる点。円やかな味わいが生まれる。
続いて夏季に供される「すだち蕎麦」。
夏と言えばコレという一品。涼やかな見た目とだしに溶け出したすだちの酸味が清涼感を演出。これだけすだちが乗っていても酸味にあまり角が立たず、蕎麦本来の風味を損なうことなく頂ける。
すだちは食べても食べなくてもよしとのこと。ちなみに私は完食します。
最後に定番「鴨せいろ」。
十分な量の鴨肉とねぎで食べ応えがある。太い白ねぎを用いていないのも特徴的だ。
濃い目の鴨汁にどっぷり浸さずディップする感覚で頂くことで蕎麦の持ち味と鴨の旨味が愉しめる。最後は鴨汁に濃い蕎麦湯を溶き、胃袋を温めよう。
こうして見ると、堂賀のメニューにはなかった一品が沢山並んでいて、しっかりと堂源のオリジナリティが発揮されている。
そこはやはり東野さんが日々培ってきた呑ん兵衛センスと研鑽の賜物なのだと思う。
「美味しい」と感想を伝えたら、「師匠に感謝やわぁ」と常に謙虚な東野さん。自分の紡いできた味に新しい感性が加わり、今も連綿と受け継がれていることに師匠もきっと喜んでおられることだろう。
[…] 12月の初め、とある蕎麦屋の美人店主ととあるイベントにお邪魔したのだが、その時知り合いになった人生のセンパイ方と4人で食事に行くことになった。 […]
[…] 12月の初め、とある蕎麦屋の美人店主ととあるイベントにお邪魔したのだが、その帰りがけに同じイベントに参加していた人生のセンパイ方と食事に行くことになった。 […]