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【東京・渋谷】熟練の江戸前の技が復活、「すし いちかん」(後編)

前編からの続きだが、長年代官山で営業してきた「寿し屋の市勘」を閉め、約1年間の充電期間を経て、渋谷・桜丘町に「すし いちかん」をリニューアルオープンさせた見市幸次さん。

久々に会うと随分日焼けした印象だったので尋ねると、充電期間中は何とサーフィン三昧だったらしい。

見市さんは今年で74歳だが、その年代の料理人にしては珍しい大学卒。学生時代は部活の空手に打ち込むアクティブな青年だったが、江戸時代から仲卸を営む実家の影響で、企業就職はせず鮨屋を志した変わり種。業界人との交友関係も広く、色んな分野にアンテナを張っており、多くの人がイメージする鮨屋の頑固オヤジとはまるで違う。だから、サーフィンと聞いて合点がいった。

しかし、その間もリニューアルオープンに向けて、知り合いのバーで鮨を握るなどして準備を重ねていたらしい。バーで本格江戸前鮨が出てきたらお客はきっとビビるだろうな。

さて、今回はそんな見市さんが握る江戸前鮨を紹介したい。

まずは空いていれば、最初にその日のネタが入ったタネ箱を見せ、プレゼンテーションをしてくれる。

赤身に白身、光り物、貝に魚卵と体裁よく綺麗に分けられており、勿論、季節によってネタは変わる。

まずは最初に供される付き出しをつまみながら日本酒を愉しみたい。

付き出しは煮イカやもずく酢、冷奴、山芋酢漬けなど色んなパターンがあり、今日は何が出てくるのかという楽しみがある。

次は握り前のツマミ。煮物に焼き物、揚げ物、なめろう、刺身…と、これも結構色んな種類がある。

写真は印象に残った焼きトリガイ。

濃いワタの味に七味唐辛子が効いていて日本酒が進むのよ。

カワハギの肝。

これもまぁノックアウトされました。肝系の味ってどうしてこんなに酒と合うんだろうか。

連れが頂いた真夏の生ガキ。

見たこともないような大きさで殻ごと豪快に提供。「まるで海のミルクや~」と目を丸くしていた…ような気がする。

続いては刺身といこう。

まずはとある日、「まずはこれ食べてよ」と供されたアジの刺身。写真を撮っていたら、「これも」とすかさずホッキガイが。

次にタイに中トロ、アカガイ、ヒラメと続いた。

次々に供されたのでスゴイ勢いで食べてしまったことを記憶している。

そうかと思えば、とある夏の日のカツオは実につつましやかに供された。

焙った香りをまとった赤身は新鮮そのもの。飲んだなあ。

刺身の内容は基本的に見市さんのお任せ。ひと仕事を加えないものが多いので、とりわけ鮮度が生命線だが、仲卸のDNAが息づいているのだろうか、毎度お見事と言うしかない目利きの技術である。

次はいよいよ握り。

江戸前鮨だけあって、ネタには「〆る」、「煮る」、「漬ける」、「寝かす」といったひと仕事が丁寧に施されている。シャリは人肌並みの温かさで、酢は程良い効き具合。お客が手で食べるか箸で食べるかを見て、握り加減を調整するという見市さんの細やかな心配りが嬉しい。

以下、ネタが多いので、長ったらしい説明は抜きにして、ビジュアルで楽しんでいただければと思う。

まずはヒラメ。塩とスダチで頂く。

夏のキスは昆布で〆てからスダチを搾って。

マグロの赤身。

トリガイ。

夏の風物詩、新子。

4枚重ね。初めて新子を頂いたのが市勘だった。まだ関西ではなかなかお目にかかれないネタ。〆具合が素晴らしい。

〆鯖。

塩で頂くイカ。

イワシ。

エビ。

カワハギ。

豪華に肝が乗っていて、タレとスダチで頂く。センスを感じさせる一品。

冬のブリ(左)。

脂が乗っていて抜群の旨味が感じられる。訊けば、しばらくの間熟成しているのだそう。「肉でも腐りかけが一番ウマイっていうだろう。ブリも一緒。その境目を見極めるのよ」と見市さん。

アワビ。

マグロ漬け。

大トロ。

ウニ。握りの時と軍艦巻きの時がある。

アナゴ食べ比べ。最初は焼きアナゴ。

香ばしくて身本来の繊細な味が愉しめる。

続いては、煮アナゴ。

柔らかい身に甘いタレが馴染む。「煮る」という仕事のありがたみを感じる。

巻物はとろたくが美味い。

これも関西ではなかなかお目にかかれないネタ。やはり初めて頂いたのが市勘だった。

最後は玉子で〆。

以上、長くなってしまったが、いちかんは肩肘張って訪れるような高級鮨店のスタンスとはまるで違う。ウマイ鮨を好きなだけ食べたくなった時にこそ利用してもらいたい店である。渋谷でこれだけのクオリティの握りを提供していながら、六本木・西麻布の有名店の半額ほどでしっかり飲み食いできるのは、鮨を気軽に愉しんでもらいたいという見市さんの心意気の表れだろう。

キャリア50年以上、数々の業界人が訪れ世界的にも有名な店にもかかわらず、見市さんは全く鼻にかけることがない。カウンターで近所の赤ちゃん連れ家族や代官山時代から通う老夫婦と談笑する見市さんを見て、改めてこの店が広く愛されている理由がよく分かる。

これからも末永く、安くてウマイ江戸前鮨を握り続けてもらいたい。

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