注釈:2023年6月30日、投稿内容に関するご意見を頂戴しました(コメント欄)。私の持論を展開するうえで誤解を招く表現があったとともに、断片的な情報だけを材料にしてしまったと自省します。私自身、「ザガットサーベイ」の元愛読者であり、何らかのかたちで復活を望むひとりです。投稿内容が同誌を否定するものではないことを付け加えさせていただきます。
皆さんはかつて「ザガットサーベイ」が日本進出したことを覚えていらっしゃるだろうか。
ザガットサーベイとはニューヨークで弁護士として活動していたザガット夫妻によって1979年に創刊されたレストランガイドであり、「ミシュランガイド」のような料理評論家の評価だけが反映されたガイドの信憑性に疑問を抱いていた夫妻が一般読者へのアンケートを集計してランキングを決める方法を確立した。
掲載されるレストランはビブグルマン等が登場する前のミシュランガイドに比べると随分手頃な店も多く、庶民に身近なガイドブックとして長く親しまれてきた。
そしてミシュランガイドが日本進出を果たした2007年、ザガットサーベイも東京と京阪神のレストランを対象としたガイドを出版した。
「料理」、「内装」、「サービス」の3項目をそれぞれ30店満点で評価するとともに、読者から集めた感想・コメントを引用して本文に掲載する手法は大変興味深く、写真が一切掲載されない白黒の紙面を齧り付くように読んだ記憶がある。
出版当時はなかなかの売上部数を記録したようで、「ミシュランかザガットか」といった比較論評もしばしば目にした。
しかしその後、京阪神は2008,09年合併版を出版したのみ、東京も2013年版を最後に出版はストップしてしまい、事実上の撤退となった。
ミシュランガイドが今も毎年、地域を広げて刊行され続けている一方で、なぜザガットサーベイは日本で急速に勢いを失うことになったのだろうか。
それのヒントはザガットサーベイの評価手法にある。
決められた評価項目ごとに点数を付けてコメントを書く…何かの手法に酷似していることにお気付きだろうか。
ずばり「食べログ」の口コミ投稿である。
ご存知のとおり、食べログはインターネット上で運営される会員制のグルメサイトである。
評価項目が味やサービス、雰囲気、コストパフォーマンスに細分化されており、会員登録した人なら誰もがレストランの評価を投稿することができる。
ハガキ等での応募とは比べものにならないくらい多くの人から評価を集められるため、自ずと統計の信頼性は高くなる。また、個人が撮影した写真を投稿することもでき、ヴィジュアル面でも情報が豊富に得られる。
そして何よりもネット上で評価や店情報がリアルタイムで上書きされるため、利用者は常に最新データにアクセスすることができるようになった。
こうなると年に1回しか(もしくはそれ未満)更新されない紙印刷のザガットサーベイの出番などもはやない。
皮肉にもザガットサーベイがコアコンピタンスとした一般人による評価がインターネットの発達によりいとも簡単に奪われてしまったというわけだ。
その後のザガットサーベイについて付記しておくと、2011年にグーグルにより約160億円で事業買収され、2016年のネット掲載を最後に全世界で事実上の廃刊となる。
しかし、蓄積された豊富なノウハウがグーグルマップにグルメ情報や個人のレストラン評価を落とし込む新たな機能を付与することを可能にしたのだった。
その後、2018年に新興ネット企業が再び買収。本年秋には紙印刷が復活する予定なのだという。
最後に、そんな数奇な運命に翻弄され続けているザガットサーベイの2007年京阪神版の中身を少しだけご紹介。懐かしんでいただければと思う。
記事の内容を拝読しましたが、出版事業の悪化によって撤退したのとは全く事情が異なりますね。日本版版元はまだまだ継続して出版継続する姿勢でしたが、ザガット社は高くGoogle社にバイアウトした成功者です。事実、初の観光評価ガイドとなった長野版は10万部の実売数が大きなニュースとなり、東北震災時には政府との協業により世界中への日本のコンテンツツールとして大きな社会貢献を成し遂げて、ザガット愛読者にも支えられてきました。
Google社による買収の目的は、デジタルコンテンツの拡充のためという主旨があったためですので、このテキストの筆者の方は断片的な情報で書かれたものと言えます。
Takadish 様
コメントを頂戴いただき、誠にありがとうございます。
このような駄文・長文をご覧いただき忌憚のないご意見をいただけたこと、素直に嬉しく思います。
そして誤解を生むような表現をしてしまいましたこと、誠に申し訳ございません。
お恥ずかしながら長野版のこと、そして東日本大震災時の協業のことは存じ上げませんでした。
さらに、約3年前にこの文章を書いた際、ザガットサーベイの発行部数や売上部数の推移を調べた記憶がありますが、私がインターネット等で検索する限り、これらの客観的事実となる情報は見付け出すことができませんでした。
このため、決して「出版事業の悪化」とは書かず、撤退という事実のみ記載した次第です。
しかし、「日本で急速に勢いを失った」という表現は事業の悪化を想起させるものでありますし、何より食べログにコアコンピタンスを奪い取られたという私の持論を展開するうえでそのような過度な表現をしてしまったのではないかと、3年前の自分の思考回路を紐解きました。「断片的な情報で書かれた」というご指摘はご尤もだと思います。
重ねてお詫び申し上げます。
一方で、実際のところ出版事業の状況はどうだったのかという疑問があります。
長野版の発売は2009年3月とのこと、その頃は東京版から京阪神版にも範囲を広げてまだ話題にもなっていたと記憶しています。
そこから最後の2013年版までの発行部数や売上部数の推移が知りたいところです。
また、版元が出版継続する姿勢だったとのことですが、どういう経緯で撤退するに至ったのでしょうか(2011年9月にバイアウト、2012年10月発売の2013年版を以て撤退)。部数の増減にかかわらず、利権関係の問題があったのでしょうか。
私はやはりWeb書籍の発展や他の評価サイトの勃興等により従来の(書籍販売のみという)ビジネスモデルが厳しくなったため、Win-Winな関係でバイアウトが成立、キリの良いタイミングで撤退したのではと想像しています。
なお、「Google社による買収の目的は、デジタルコンテンツの拡充のため」と記載いただきましたが、(本文)「蓄積された豊富なノウハウがグーグルマップにグルメ情報や個人のレストラン評価を落とし込む新たな機能を付与することを可能にした」というのが私の見解であり、その点はTakadish様の見解とは相違ないように思えます。
以上、大変長々と失礼いたしました。もしご存知の情報があれば是非ご教示いただけますと幸いです。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします!