2020年の夏ももう終わり。
本当に不自由で過ごしづらい、また心が晴れない、何とも忘れがたい夏となったのだが、幸運にもその締めくくりを神戸・ハンター坂のイタリアン、「ハナタニ」で迎えることができた。
今回はありがたいことに個室を用意してもらったのだが、利用は初めて。その見事な設えに思わずため息が出て、しばらく撮影タイムとなった。
ようやく落ち着きを取り戻し着席。料理を待つ。
7月から¥12,000のディナーコース1本となり、どのようなハナタニワールドが展開されるのか非常に愉しみだ。
最初の乾杯は軽めの白をお願いしたところ、花谷さんがイタリア・プーリア州の作り手によるものをセレクトしてくれた。
プーリア州はルミナリエ発祥の地でもあり、このエチケットの模様はルミナリエを模したものだという。
興味深い話が聞けたところで、早速コースのスタート。
最初はペルシュウにポルチーニで味付けしたミルキークイーンのライスボール。
希少なペルシュウをたっぷり食べられるのは幸せの極み。最初はペルシュウのみで頂く。舌の上でとろけます。続いてペルシュウでポルチーニのライスボールを包んで。ペルシュウの旨味にポルチーニの酸味が素晴らしいアクセント。
パン。
酸味のある味わいが口の中をリセットしてくれる優れモノ。
続いては、生ウニ、ナスのムースにトマトの抽出液。
今度は旨味と酸味に加えて、円やかさの共演といったところか。晩夏の疲れた胃腸を休めてくれる優しい一皿だった。
明石のタコ、すもも、ジュンサイ、オクラにフィンガーライム。
こちらも夏の締めくくりに相応しい一皿。さまざまな酸味にぬるりとした食感、新鮮なタコの歯応えと天然の塩味。実に愉しい一皿であった。
思いもよらない食材でしっかりイタリアンに仕上げてくるところ。さすが花谷さんである。
さて、白ワインの次はハナタニの代名詞とでも言おうか、オレンジワインをボトルで。
花谷さんが「ラディコン」の中でもとりわけ好みだという2003年モノを選りすぐってくれた。
500mlだが、実に深く飲みごたえのある味わい。この「ラディコン」、ハナタニの料理と抜群の相性を発揮するのである。
ここで前半戦の締めくくりが登場。
アワビを5年熟成のマルサラワインと肝を合わせたソースで頂く。下には付け合わせのアワビ茸。
旨味が一気に突き抜ける。塩は使っていないというが、素材の持ち味だけでこれほどまでに深く完成された味付けとなるのか。感心してしもうたわ。
アワビとアワビ茸なんてのも面白いですな。洒落だけでなく歯応えのシンクロや味のコンビネーションなんかもしっかり計算されていて素晴らしかった。
メイン前のカラスミの手打ち・手延べパスタはグリーンレモンの香りを添えて。
抜群の喉ごし・舌触りでした。
通例ならパスタ、アワビ、メインという流れだと思うが、パスタが真ん中に来た。抑揚を意識してこの順にしたという花谷さん。確かにアワビ、メインの順なら旨味が続いてメインの魅力が半減してしまう。そこで、アワビほどの旨味はないが、アワビとメインのメインの繋ぎ役に相応しい、それなりの旨味を持ち合わせたこのパスタを持ってくる…素晴らしい算段だ。
いよいよメインは長期肥育のブランド牛「花乃牛」のヒレ。
こんなに綺麗なサシが入った花乃牛が…
こうなりました。
付け合わせはポルチーニのフリットに冬瓜。完全にハナタニワールドである。
絶妙なサシの入り方と素晴らしい火入れ。おそらく長い時間をかけて丁寧に焼き上げられたのだろう、柔らかく肉汁が閉じ込められ旨味が際立つ。間違いなくピークはここだと実感できた。先ほどの算段が見事に生きていた。ご馳走様でした。
デセール一つ目は口直しのバジル・レモンのシャーベットにライムのジュレ。
二つ目はティラミス。
再構築された感じが新鮮です。形を変えても美味さに変わりはありませんでした。
最後はレモンティーですっきり。
食後は仕事を終えた花谷さんを迎えて楽しい談笑。食後酒で再び飲み直した。
総じて、これまでなかなか本格的な外食ができなかった鬱憤を晴らすかのような素晴らしいディナータイムとなった。
そして、コースオンリーとなった新生ハナタニに大満足できた。
コースには、爆発力があるかつてのアラカルトの定番、「播州赤鶏とビーツのサラダ」も「ブラウンマッシュルームとシイタケのパスタ」もないが、抑揚・強弱を工夫し総合力で大満足な食後感を導き出している点に新たな可能性を見た気がする。
10月からは休止していたランチも再開するというし、またお世話になる機会が増えそうだ。