以前の投稿で神戸グルメの輪郭をかたちづくる主要ジャンルのひとつに「洋食」を挙げた。
そのなかで、日本郵船の豪華客船のコックたちが神戸で独立し自分の店を構えたことが神戸の洋食文化を大きく発展させたと書かせてもらった。
その代表格とも言える名店の一つに「ハイウェイ」(2010年閉店)があるが、そのお孫さんが3年前から新たに洋食店を営んでいるとあって、この度ようやくうかがうことができた。
「グリルdaito」。

店はJRからトアロードを北上し、「神戸北野ノスタ」(旧・神戸北野工房のまち)の正面にある小道を入ったところにひっそり佇んでいて、温かい木目調の外観が入りやすい。
昼時の店内はほぼ満席。残席2という状況で何とかカウンターに滑り込むことができた。
ざっと店内を見渡すと、整理整頓が行き届いており、カフェのような開放感があって、女性客の割合が非常に多いのも合点がいった。
この日のBGMは80’sの洋楽。心地良い音量でダイアナ・ロスやアイリーン・キャラが流れていた。最高です。
じっとメニューを眺めていると、ワンオペの店主から、一番人気という、ハンバーグとカニクリームコロッケが相盛りになったセットを勧めてもらったので、迷わず注文。
ドリンクにはワインを注文したが、昼限定で白、赤、ロゼ、オレンジ、スパークリングを何とワンコインで提供するという太っ腹さ。これには脱帽だった。
しかもなみなみと注いでもらい、この半分の量で1,200円くらいが相場の東京を考えると、思わず手を合わせて拝みたくなった。

夜は900円で提供しているとのことだが、それでも安いではないか。
ということで、注文したのはオレンジワイン。
これがまた美味しくて。
オッサンが独り、そんなこんなでウキウキしながら料理を待つようすは気持ち悪かったかもしれない。
待つこと25分くらいで料理が到着。
ハンバーグとコロッケが盛られた大皿を白ご飯、赤出汁、漬物が囲む。

ザ・日本の洋食という構成だが、大皿の付け合わせが目を惹いた。
野菜サラダ、タケノコ、ポテトサラダと(ラペでなく)沖縄郷土料理の「人参しりしり」。

見た目の彩りの良さもさることながら、バラエティ豊かで非常に個性的である。
いずれもメインを邪魔しない優しい味付けで、まさに名脇役。
また、赤出汁も下に大きなアサリが沈んでいて嬉しい驚きがあった。

そして、いよいよメインのハンバーグへ。

タネには近隣の精肉店「Nick」から仕入れる神戸ビーフと長崎の芳寿豚というブランド豚を使用しているとのこと。
ナイフを入れると肉汁が溢れ出し、肉本来の旨味が前面に出ている。ウマイ。
デミグラスソースは甘ったるくなく、実に上品。名店の系譜を受け継ぐ矜持を感じた。
続いて、カニクリームコロッケを実食。

こちらも兵庫県という地の利を活かして、有名ブランドの香住ガニを使用。
ベシャメルが軽やかで、揚げずにオーブンで焼き上げているため、カニの旨味をしっかり味わうことができる。
うーん、これも美味だ。実に上品で繊細なコロッケである。
なお、コロッケには「浅間丸風」というサブタイトルが付く。
「浅間丸風」とは、「ハイウェイ」2代目店主がかつて日本郵船の豪華客船・浅間丸でコックを勤めていた頃、船火事のもとになるという理由から、コロッケ等を揚げずに全てオーブンで焼き上げたという歴史にインスパイアされたことに由来する。

事前に頭に入れたコソ勉知識を参照しながら頂いたランチは実に愉しかった。
総じて料理から、名店の歴史・味を守りたいという店主の強い想いを垣間見ることができた。
一方で、良質な地元食材へのこだわりや付け合わせのオリジナリティ、ワインのバリエーションなどはかつてのハイウェイにはない新たな試みだろう。
ハイウェイの味を新世代の店主の感性で見事に昇華させたのがdaitoの料理なのだと感じた。
夜はアラカルトとコースが主体とのことで、これまた興味深い。
是非また訪れてみたい。
