「オー・シザーブル」の閉店から2年が経とうとしている。
オー・シザーブルとは、フランス語で「Aux Six Arbres」。日本語に訳すと「六本の木」で、ズバリ東京・六本木の路地裏に佇む小さなフレンチレストランだった。1978年、関根進・葉子夫妻によって開店し、数多くのスターシェフを輩出したことでも知られている。
その面々を見てみると、銀座「ル・マノアール・ダスティン」の五十嵐安雄シェフ、広尾「アラジン」の川崎誠也シェフ、牛込神楽坂「ル・マンジュ・トゥー」の谷昇シェフ、六本木「ル・ブルギニオン」の菊地美升シェフと、ホントに錚々たる顔ぶれで、この店が日本のフレンチの源流をかたちづくったと言っても過言ではない。
オー・シザーブルを知ったのは今から15年ほど前のことだろうか。それこそ上記のシェフたちの経歴を見ていたところ、皆に共通するのが「オー・シザーブル」。一体どんな店なのか…ということで調べ始めたのがきっかけであった。
以降、「いつか訪れたい」という願望を持っていたが、当時の私と言えば現代的フランス料理にぞっこんで、ある意味、クラシックをないがしろにしてしまっていた。
そして、ようやくクラシックの優位性を再認識した頃には関西在住となり、六本木どころか東京自体から足が遠のいていた。
それでも何とか都合をつけてランチで訪問することができたのは2015年10月初旬。それが結果的に最初で最後になってしまったわけだ。
この日は平日、あいにくの雨模様とあってお客は私たちだけ。
後ろに予定が控えていたので、¥1,600の軽いショートコースをセレクトした。
正直、料理の内容は物足りないもので(ただし、ワインは抜群に美味しかった)、時間さえあればスペシャリテのフォアグラソテーが組み込まれたランチコースに挑戦したのに…と今となっては後悔でしかないのだが、マダム葉子を独り占めすることができた私たちは雨の音をBGMに約1時間半、色んな話を聞かせてもらった。
スターシェフたちの逸話や彼らの名物料理を求めてかつて紳士淑女の行列ができたこと、ヒルズやミッドタウンなどの高層ビルが立ち並ぶ前の平和な時代の六本木のこと…等々、マダムの眼差しは実に懐かしそうだった。
一方で、そういう華やかでロマンティックな時代の生き証人であるマダムの前で料理の写真をパシャパシャ撮っていた自分を何とも気恥ずかしく思ったことを今でも鮮明に覚えている(笑)。
その後もタイミングが合わず、再訪して歴史あるフォアグラ料理を堪能できなかったことは大変後悔しているが、一方でマダム葉子の話の続きを聞くことはまだできる。
西麻布にある「ビストロ・ド・ラ・シテ」(以下、「シテ」)はご主人の進さんが長年営んできた姉妹店だが、ここでマダム葉子がランチタイムのサービスを担当しているのだ。
マダムより5つ上の進さんもまた気取らずユニークな方だという。コロナがひと段落したら、早くシテに行こう。
関根夫妻のような大先輩たちがまだ現役のうちに色んなことを勉強させてもらいたいと思う。